2008年6月28日土曜日

「琉球貿易図屏風」超高精細デジタルデータ

「全ての人間は、生まれつき、知ることを欲する。その証拠としては、感覚知覚への愛好があげられる。というのは、感覚は、その効用をぬきにしても、すでに感覚することそれ自らのゆえにさえ愛好されるものだからである。しかし、ことにそのうちでも最も愛好されるのは、眼によるそれ[すなわち視覚]である。」出隆訳『アリストテレス 形而上学』岩波文庫

6月25日(木)「琉球貿易図屏風」超高精密デジタルデータ報告会が開かれました。井手亜里教授(京都大学)のプレゼンテーションと実際のデジタルデータの映像が公開されました。

感想は、「凄い」の一言でした。そして、アリストテレスの「最も愛好されるのは、眼によるそれ[すなわち視覚]である。」という言葉にあるように、現代のデジタル技術によって私たちの感性が揺り動かされるそんな報告会でした。

従来、学芸員が虫眼鏡で観ても判読不能な細かいところまで、鮮明なままで拡大できていました。おそらく原寸5ミリ程度の人物の顔もおよそ20から30センチ程度に拡大されましたが、鮮明な画像でスクリーンに映し出されました。目鼻や口、そして眉毛までもがかなり細かく丁寧に描かれているのがスクリーンに映し出され、出席者全員で観ることができます。出席者から感嘆の声があがりました。人物の描写の解析などこれまで明らかにされてこなかったことが次々明らかにあるものと期待されます。

学芸員やその他の研究者が一堂に会して、細かい部分を検証することが出来ます。多面的な研究上の利便性が飛躍的に向上することは間違い有りません。更に、この超高精密デジタルデータを作成する過程で、顔料の成分分析なども出来るようで、美術史研究のツールとして強力な助っ人のようです。

報告会後、先輩教授のお一人は、「あの映像を見たら研究者なら何か(「琉球貿易図屏風」で)研究したいと突き動かされるでしょう」とのコメントをされていましたが、確かに、「視覚によるそれ」が、人を突き動かし、解明したいという見る人の知的欲求を掻き立てることは間違いありません。

報告会後の討論で、このような超高精密デジタル画像技術の著しい発達が進む一方で、そのデジタルデータの保管や利用に関わるルール作りが日本全体で立ち後れていることも課題として浮かび上がってきました。民法の先生も「著作権の切れた美術品のデジタルデータについては、課題として判っているのに10年ぐらい、議論が進んでいない」と言う趣旨のことと話していました。工学技術の発達を上手く活かす、ルール作りも早急に求められているようです。その場合、文化財所有者の権利の保護と私たち人類の共有財産としての文化財を保護し、我々の文化や文明水準を高めるための賢い利用の仕方について検討が必要です。

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